From:藤村綾
前回の不倫テーマで書いたコラムはとても好評をいただきました。
ありがとうございます。
不倫はいけない行為です。
今回は、その渦中の女性の心情を書きました。
いくら好きでも決して自分のものにならないとわかっていても逢ってしまうのは、カラダの相性が合うからで、それ以外にはなにもありません。
カラダの相性というものはどれだけ残酷で耽美(たんび)なものなのか。
「殺して」というセリフはもうほとんど重症の場合。
相手に殺してもらう以外忘れるすべなどはない。
阿部定ではないですが、わたしも布団の下にナイフを隠していたこともあります(幸い切っていませんが笑)
殺すかあるいは殺されるか。
読んで共感をしていただけたら幸いです。
彼は忙しい…
忙しい彼はホテルに入るや否やくたびれたカバンからパソコンを取り出し、テーブルの上に広げる。
ガラスの心もとないテーブルには、お盆料金のお知らせや、メンバー会員にあてられた無料サービスの案内、無料ビデオサービスのチラシやらが整然と並べてられておいてある。
それらを簡単に横にパパッといざらせる早業は慣れている感じにも見えてしまう。
月に2度会えたらいいほどなのだけれど、1度も会えない月もあるのに、一連の流れはすっかり把握出来てしまっている自分に失笑しながらも、パソコンを打っている彼をじっと見ていた。
アイコスを咥えながら器用にキーを打つ指がしなやかに動く。
無骨な指はおもての仕事なので汚れている。
その指を見るとやっと彼に会えたのだとあえて自覚をする。
ん?
彼がキーを打つ指を止めて、わたしの方に一瞥をくれると
「見過ぎ。やりづらい」
きりりと視線を鋭くさせてはっきりと口を開く。
「あ、は、ごめん、ごめん」
割と前のめりになっていたカラダをソファーに預け髪の毛を指で巻きつけながらあやまった。
「ごめん。急いで片付けるから」
今度は彼が謝る。
わたしは肩をすくめた。
忙しいのはわかっている。
現場監督の彼だ。
忙しくない日など今まで聞いたことがない。
隙間時間をつくって会ってくれているから、余計に申し訳ない気持ちで満タンになる。
好きだから会いたい。
本当は、毎日会いたい
毎日顔が見たいし、声が聞きたい。
わたしはそれが全て許される立場ではない。
はぁ。終わった。
彼は起動していたファイルを全て閉じた。
「あのね、ディスクトップにいろいろたくさん並べ過ぎだよ」
つい、思ったことが声に出た。
彼の方を見たら、うなずくだけで、顔の色をなくしていた。
「疲れたよ、疲れた」
まるで見当違いの言葉はかなり疲弊しているのがうかがえる。
「あんまりたくさんおくとね、起動が遅くなるのよ」
わたしは、一応それなりに付け足した。
彼は、そっか、と素っ気ない返事をしながら、そうなんだぁ、と呟く。
「カバンの中、ぐちゃぐちゃだ」
パソコンをしまいながらひとりごとなのか、わたしに向けられた言葉なのかはわからないけれど、わたしは、彼の背中がちょっとだけ小さく見えた。
冷房があまりにも効きすぎて寒い。
彼もそうだったのが、ドアと窓を開けおもての空気を部屋の冷気と混在させた。
ふと不安になるとき
ちょうどいい温度になったら急に不安になる。
会っているときはいい。
けれど、今度はまたいつ会えるのかわからない。
毎回こうやって自分の気持ちを押し殺し、都合のいい女を演じる。
不倫女はこうやって自分を傷つけて苦しさの海原で泳いでいるのだ。
会っていてもつらい。
会わないでもつらい。
結局どうしていいのかまるでわからない。
わかっているのは、彼は他の人のものであり、わたしのものには決してならないという事実。
ズルズルと深みにハマっていく。
彼の大きな海の中を泳がされて溺れる。
こんなにも愛おしいのに。
おそろしいほどカラダの相性がいいのに。
ココロの相性だけは通わせられないのが本当につらい。
「もっと、気楽に考えられないのかな?」
まるで他人事のよう真顔でいわれて戸惑ったことがある。
わたしは独身だ。
軽く考えてなどいない。
先の見えない迷路のような恋。
わたしはいつもそのことを考えている。
彼のモノが…
彼は先にシャワーに行った。
次ににわたしがシャワーをする。
出たら部屋の明かりが全て消え、なにも見えない空間をつくりだしている。
「どこ?」
「ベッド」
ベッドの方に向かって千鳥足で歩いてゆくと、彼はわたしの手を引いてそのままバックにし、準備すらしていないのに、中に入ってきた。
ググッとゆう挿入音がした。
前戯もないままの挿入でもすんなりと入ってゆくのが不思議でならない。
今度は正常位にし、わたしの首筋に唇を這わせ、その延長で乳首を舌で転がせる。
子宮に電流が流れる。
わたしは上で稼働している彼の首に腕を回し、「殺して」そう叫んでいた。
いっそ殺された方がまし。
最近ではそんなことを思ってしまう。
生きてることだけは選べない。
けれど、死だけは自分で決めることが出来るのだったら、いっその事、好きな相手に殺されたい。
望んで殺すことは罪に問われなければきっとそんな不倫カップルが増えるかもしれない。
それでも彼が好き
わたしは、あっ、あっ、と、声をひどくあげ、そのまま彼のいいなりになる。
時間が止まればいい。
彼のおもちゃでもいい。
そう願いながら歓喜の声音を部屋中に響きわたらせた。
「心臓の音がすごい」
肩で息をしながら、ハーハーとゆう吐息と共に彼の声がしてくる。
「どれどれ」
彼の胸に手のひらをあて、心臓の音を確認した。
さっきより鼓動は治っていた。
カラダのどこかに触っていたいとゆう心理はやはり好きだからだろう。
彼の胸はほとんど筋肉だった。
目が慣れてきて彼の横顔をじっと見つめる。
目を閉じているのでさらにじっと。
「バカ。だから見過ぎ」
彼は目を閉じたまま胸に置かれたわたしの手を取って手を絡める。
『お願い。これ以上好きにさせないで』
わたしの心は懇願をする。
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